2016年08月30日

和菓子の難

一般の日本人が「和菓子」というものに抱くイメージは、上品、繊細、ヘルシー、といったところでしょうか。

私も例外ではなかったのですが、『やさしく作れる本格和菓子』(清真知子/世界文化社)という本で、認識が一変しました。
本格和菓子というのは、茶席で供されるような、伝統的な和菓子です。確かに上品で繊細なできばえ。かわいらしいのもあります。

しかしながら、作る過程を見てしまうと、「なんだかなあ」って感じなんですよ。

まずは材料。高価な道明寺粉や上用粉、本葛粉、入手しにくい本わらび粉などを多用していますが、それらを装飾するのに不可欠なのが、食紅などの食用色素です。別に色素が毒と言いたいわけではないけど、色素そのものは見るからにどぎつく、毒々しい。

どぎつさへの不快感は、京都の末富という老舗菓子店の菓子を紹介した本『菓子ごよみ』(山口富蔵/淡交社)をめくって、頂点に達しました。うわー、こんなケバい菓子が高級なのか。

和菓子もさまざま。ようかん、大福や黒糖まんじゅうなど、素材の色を生かした、素朴で庶民的な和菓子のほうが、私たちはなじんでいます。

和菓子は高級になればなるほど、色素に頼らざるを得ないのです。
それは、坂木司いうところの「物語性」のためかもしれません。
伝統和菓子には、そのひとつひとつに由来があり、表現すべき対象があるのです。表現力を高める手っ取り早い手段が着色。舌よりも目で味わうわけ。

和菓子がヘルシーとされるゆえんは、バターやマーガリンなどの油脂類をほとんど使わないことでしょう。1g当たり9kcalの熱量を持つ脂肪に対して、糖質は4kcalと半分以下です。

油っぽくないということは、和菓子は砂糖のかたまりのようなものです。カロリー低くても、糖質が気になる人には向きません。
砂糖は甘みを付与するだけでなく、水分を含んで菓子をしっとりさせる働きも持ちます。甘さ控えめにすべく砂糖を減らすと、ぱさぱさの舌触りになってしまうのです。

そして、作り方。
高級和菓子は細工が凝っているから、手でこねくり回して仕上げるのが普通です。衛生管理をしっかりしておく必要があります。

茶巾絞りは濡れ布巾でくるんで形を整えますが、この布巾の扱いって難しいのではありませんか。洗剤で洗えばどんなにすすいでも洗剤分が残り、水洗いだけでは雑菌が増えそう・・・一般家庭では避けるのが賢明でしょう。
また、和菓子を作る道具には木製のものがけっこう多い。ヘタすれば雑菌の巣ですわ。

人気の洋菓子作家・なかしましほの『まいにち食べたいごはんのようなクッキーとビスケットの本』では、粉とオイルを素手でこね、指についた粉はこすり落として混ぜてしまうという豪快さ。使ったボウルも水洗いで済ませるそうです。
これまた「なんだかなあ」ですが、実際やってみると、指にもボウルにもほとんど材料が残らず、無駄がない。
それに焼き菓子なら、最後に高温で焼き上げるから、とりあえず心配無用なのですよ。

上述の本格和菓子の本で気になったのは、作っている人(たぶん著者)の手荒れがひどいこと。作る前にはしっかり手洗いをするでしょうし、ハンドクリームなんか塗るわけにはいきません。

人の皮膚を覆う無数の常在菌は、食中毒を起こす黄色ブドウ球菌などの繁殖を抑える役目を果たします。洗い過ぎて手が荒れると、善玉菌が減り、悪玉菌が増えるのです。しかも荒れた皮膚はなめらかでなく、はがれやすいうろこや瓦が張りついているような状態で、洗ったあともその瓦の下に菌が潜んだまま。

それらの菌が手の皮のかけらとともにお菓子に混ざってしまうようすがありありと浮かんでしまう私って、神経質すぎ?

おはぎ
手作りおはぎとぼたもち。

いろいろと和菓子に難癖つけてしまいましたが、現実には、和菓子で食中毒なんてニュースはあまり聞きません。

食中毒の本などでしばしば取り上げられる「大福餅事件」は戦前の話です。餡がネズミのフンで汚染されたのが原因らしい。現在とは衛生観念が違うでしょうが、都会ではネズミが増えているそうだし、同じような色だから混入しても区別つかんし・・・。

私たちは毎日毎日、大量の生きた菌や死んだ菌を食べています。それでどうってことないようにできているんです。
気にしすぎると、おいしいお菓子もまずくなりますぞ。

気になって和菓子はもう食べたくない。というかたには、頭で味わう和菓子を・・・。

和菓子をモティーフにした上質なミステリ『和菓子のアン』(坂木司/光文社)はいかがでしょう。

デパ地下の和菓子店で働き始めたアンちゃんという女の子のまわりで起きる、ちょっぴり謎めいたできごとを扱っています。
キャラクター設定も面白い(かなりヘンだ)し、和菓子の知識が豊富に得られ、デパ地下事情などにも詳しくなる「お仕事エンターテインメント」の要素も。人が死なず、血も流れないので、ミステリ苦手な人にもおすすめ。

バラバラ死体や大量殺人大好きな私には、ちょっと趣味に合わないんですけど。と、またまた難癖。
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投稿者:ルノ 13:06 | トラバ(0) | 世相=世間相場?
2016年08月29日

迷い蝉

1匹のセミが地上に出てきたら、世界は戦争で滅んでいて、生き残っていたのは人間の少女がひとりだけ・・・という超短編マンガがありました。確か松本零士の若いころの作品。

世の移り変わりはめまぐるしく、6年後には何がどう変わっているか、予測もつきません。
かたや6年どころか10年も前から、なんの進歩もないブログを持つ人も、ここに約1名。

セミの幼虫って、数年間、種類によっては十数年の間、暗い地中で何を考えて過ごすんでしょうね。退屈じゃないんだろうか。

セミがあんなにも気ぜわしく鳴くのは、早く連れ合いを見つけて子孫を残さなきゃと焦っているからのようにも思えます。もう少しオトナの時期が長ければ、多少はのんびり過ごせるのに・・・。

住居の向かい側に小さな公園がありまして、毎日毎日、ジーコジーコ、ジャジジャジと鳴きまくっています。道路を隔ててもかなりの騒音だから、本人たちにはもっと大音量。難聴の心配はないんだろうか。

とまあ、退屈だの、気ぜわしいだの、難聴だのって、単純に人間からの見方なんですよね。
セミとしては、進化の果てに、幼年期と成熟期のバランスや鳴き声の大きさなど、これがベストという状態に落ち着いたのでありましょう。

昔、セミのそばで大砲ぶっ放したら逃げなかったので、セミは音が聞こえないんだと言った人がいましたな。

調べたら、ファーブル大先生でした。
ファーブルって人は、自分で芋虫の匂いを嗅いでみて、全然匂わないから、この芋虫を狩る蜂は嗅覚を頼りに探し当てるのではないと結論づけるようなところがあって、虫と人間の感覚を同一視していたような。

セミがやかましいのは事実だけど、やっぱり私も日本人、さほど気になりません。夏だからそんなもんさ。

ある朝、やけに大きな鳴き声が聞こえてきました。普段は気にしない私でも耳をふさぎたくなるほど。
そばの電柱に飛んできたんだろうか。ベランダに出てみると、足元からジジジジッ。床に大きなセミがへばりついていました。

ベランダのセミ

羽が透明でボディが黒光りしてるから、クマゼミかなあ。

セミは前後に這ったり、横歩きしたり、時々ぴょんと飛び上がったりして、その合間におなかを激しく震わせて、ジャジャジャーと鳴くのです。1回の鳴き時間は10秒足らず。
鳴き声は大きくて、一見元気よさそう。ただし、近づいても逃げないから、弱っているのかもしれません。

鳴き声はだんだん間隔があいてきて、午後にはほとんど聞こえなくなりました。
死んだんだろうかと、のぞいたら、まだうろうろしています。セミらしく鳴くのはやめたようだけど、時折りブジィー、ブジーと短く音を発します。あんまり無事とは思えないし、できればどうにかして飛んでいってほしいんだけどねぇ。

その後は排水口のふたにとまってじっとしています。
排水口のセミ

そうこうしているうちに激しい夕立が来て、ベランダは洪水のようになりました(セミにとっては)。
うちのベランダには屋根がないから、もろ雨に打たれてしまうのに、移動しないのです。

翌朝、まだ同じ場所でもぞもぞと動いていました。しかし音を立てることは全くなく・・・。

昼過ぎにはお亡くなりになっていました。
仰向けセミ

それから3週間。
公園はめっきり静かになりました。ときたまツクツクホウシが鳴く程度です。

排水口のセミは原形をとどめたまま、まだそこにいます。
公園に落ちた死骸や抜け殻は、微生物や小さな虫たちがさっさと片づけてくれるだろうに。
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投稿者:ルノ 08:42 | コメント(0) | トラバ(0) | 虫のいい話
2016年07月30日

ウェブはやっぱりカネ次第

あるとき、「ライター募集中」という勧誘メールが来ました。
ライターというものがどういう仕事をするのかよくわからなかったけど、自分のブログさえ書けない現状では、よそ様の文までとても手が回らないと思って、さっさと削除。

その件が頭に残っていて、数か月後『副業ライターのはじめ方』という本が目に留まり、読んでみました。

人形は売れないし、広告収入は低迷しているし、もはやなりふり構わずたつきの道を模索するほかないありさまなので、『誰でもなれる』『リスクなし』『初期投資なし』といった煽り文句にはそそられます。
ライターは今や『インターネット上の代表的な副業』なのです。不安定なアフィリエイトと違って、書けば書いただけ収入が入るという確実性が魅力らしい。

その本には、ライティングにはどんな仕事があるのか、それぞれどの程度儲かるのか、難易度や向き不向き、仕事の選び方や注意点などが詳しく記載されています。

初心者におすすめなのは「リライト」という仕事だそうな。
それを読んで、私はショックを受けた、いや、ムカッときてしまったのでした。

リライトというのは、発注者から提供された「元記事」を書き直すことです。内容は同じまま、言葉や表現方法を変え、通常は文字数を増やして納品します。多少の文章力や語彙力は必要ですが、自分で一から書き始めるわけではないので、慣れれば機械的にすいすい仕上げることができるようになります。
一記事が500文字程度で、単価は100〜300円くらい。

企業はどういう意図から、そんな作業にカネを払うのか。
文章を変えるのは、記事が同じものであると検索エンジンにばれないようにするためです。ひとつの記事を、何十人ものリライターに書き換えさせ、それら記事からリンクをはってウェブにばらまけば、相当数の被リンクを得られます。検索率がアップするわけです。

ウェブ上には、そういった1個100円の増殖クズ記事が無数に浮遊していることになります。

そのせいで、すべて自分で考えたオリジナルの記事や文章を、ほんのひとつずつ地道にアップしている良心的なサイトやブログが埋没し、検索されず、人が来なくなるという、恐るべき事態が発生しているのです。
良心的な発信者のひとりであるわたくしも、あわれな被害者でありますが、良心的な私のサイトに出会う機会を逸失したウェブ利用者も、ある意味被害者ですってば。

もともとは、検索エンジンが良質なページをより多くの人に見つけてもらおうと、あれこれアルゴリズムを研究していたのです。
それを逆手にとって画策したのが、品質はさておき大勢の人に来てもらって儲けたい業者たち。そこへ、ちょっとしたおこづかい稼ぎを狙う素人ライターが群がるという構図。
グーグルとて、ペンギンやパンダを投入して対策を講じていると聞きますが、しょせんいたちごっこでしょう。

もちろん私は、飢え死にしたって、リライトなんかに手を出すつもりはありません。
渇しても盗泉の水を飲まず、といえばかっこいいが、実は人の作った文章を手直しするだけってのは、性に合わないというか、矜恃にもとるというか、ワハハ。

ラブクラフト(H.P. Lovecraft)は不遇の生涯を送った怪奇小説家です。
自分で書いた小説が売れないので、ほかの三流作家がものしたヘタな作品を手直しして、どうにか読ませるものにするといった仕事で生計を立てていました。そういう作業は、おそらく彼のプライドをじわじわと傷つけていき、命を縮める一因となったようです。

たとえ内容がヘンでも、文章がまずくても、わずかな人にしか読まれなくても、自分の手で独自のものを作り上げてこそ、ウェブにかかわる意義がある。ということにしておきます。はいはい、自己満足ですわよ。
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投稿者:ルノ 18:09 | コメント(0) | トラバ(0) | サイト運営