突然ですが、『鼻を鳴らす』って、どんな行為でしょう?
鼻を使って音を出すのなら、ま、お世辞にもおひんがよろしいとは言えませんわね。
辞書には『甘えた声を出す』『ねだる』との解説があります。
「ねえん、あなたぁン、新しいコート買ってよン」と、鼻にかかった甘ったるい声ですりすりすることなのでしょうねえ。
しかるに・・・
小説などで『鼻を鳴らす』がその意味で使われているのを見かけた記憶が、どうもないのです。
たいていは『不服げな態度』『馬鹿にしたようす』を表しています。
それらは比較的新しい用法と思われます。
「辞書が絶対」とは言いませんけど、ひとつの慣用句がこれほどかけ離れた意味に変わってしまったのはどうしたことなんでしょう。
多数の用例を時系列に並べて説得力を持たせる・・・なんてのは国語学者さんにお任せします。だって今のとこ具体例をひとつも思い出せない。私の得意は直観と感性による独断的推理であります。
当初のモデルはたぶん犬でした。犬がくんくん鼻を動かしたり、くいーんと鳴いて餌をねだることから、人が甘える形容となったのでしょう。
でも人間が甘えるときには犬みたいな声はあんまり出しません。
感覚的に『鼻を鳴らす=甘える』がぴったりこない気がするのは、上述したように、人が鼻を鳴らすのはぶ〜とかズーとか、はしたない音だからです。
すると、おお、そういう音を出す動物がいましたね。
ブタです。
ブタの鳴き声こそ、『鼻を鳴らす』にふさわしい音ではないか。
当の豚さんたちはブーブーと甘えているつもりでも、人間がブーブー言うのは不満があるとき。それで『鼻を鳴らす=不平不満』となったのでしょう。もともとある『不平を鳴らす』という表現との混同も考慮できます。
『馬鹿にしたようす』に使うのは『鼻であしらう』『鼻先で笑う』を強めたのかもしれません。
豚が食用として飼われ始めたのは明治時代以降です。
昔の日本人に豚はなじみのない動物でした。『鼻を鳴らす=ブーブー』という連想が働く余地もなく・・・。
『鼻を鳴らす』の意味が変化したのは、わが国の食糧事情のせいだったのです。
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