2012年04月28日

わんこステーキ

犬食いといえば、悪しきテーブルマナーのひとつです。犬が器に鼻先を突っ込んでガツガツ食べるようすはほほえましいのに、人間が同様のことを行うと、とたんにひんしゅくを買います。

犬は家畜の中でも最も歴史が古く、人間とともに生きてきた動物です。
それにしては「犬」という言葉はかなり貶められている感じです。スパイや裏切り者を指すこともあるし、犬死に、負け犬、犬侍などと軽んじられるし、最低の人間のことを犬ナントカにも劣るとか表現しましたね。それは犬が動物の代表ということで挙げられたということなのでしょうが。
英語でも、dogには「卑劣な奴」「ブサイクな人」「粗悪品」「失敗作」などの意味がありますし、spanielはおべっか使いを意味します。

「いぬくい」と澄ませて読めば、犬を食うことすなわち食犬(犬食)を意味します。かつてはさまざまな国で犬を食べていたようです。伝統料理として珍重している国もあるとか。

突如食犬について考えたのは、たまたま漢和辞典を眺めていて、「器」という字の成り立ちが目に留まったからです。4枚の皿に犬の肉を盛り上げた形を表しているのだと。
中国人にとって、犬は大ご馳走だった、というか肉の代表は犬だったんですねえ。

それにしても犬っておいしいんでしょうか。そりゃあ、猫よりはましな気がします。そもそも猫の体は食べるほどの量ないでしょ。
一般に、人の食用にされる肉は草食獣のほうが上質です。肉食獣は臭みが強くて筋張っていて、まずそうな印象。

食材目的で肥育されるチャウチャウには、肉類をいっさい与えないそうです。それでも牛肉並みにおいしくなるはずもなし。
チャウチャウの脚が棒のような形になったのは、食材として改良された結果だと聞いたことがあります。あの脚では早く走れないから逃げ出しにくく管理が楽だし、脚からも肉をたくさん取りたいってこと?

犬はたいそう身近な存在だから、犬食に対する欧米人の嫌悪感は鯨などよりも強いと思われます。が、ちらっと調べると、ヨーロッパでも犬食文化を持っていた国があるようです。

中国人はいろんなものを料理するから、人だって食うかもしれぬ。
そういえば『三国志』に、劉備が泊まった家で、そこの主人が何も食べ物がないから自分の妻を殺して煮てもてなしたという「美談」がありまして、読者はうげっとなります。どうせなら焼いたほうが香ばしかろうに。
ちょっとうろ覚えだけど、中国で病気の親に自分の腿の肉を食べさせた孝行息子の話や、薬効あらたかな人血入り饅頭の話もどこかで読んだ記憶が・・・(フィクションだったかも)。
今でも食人種というのは存在するらしいから、昔は何が行われたって不思議はなかったでしょう。

現代の文明国で人を食す理由は、おおむねふたつに分けられましょう。遭難など飢えに迫られてというのは、ごくまれに起きます。ほとんどは変態的嗜好によるもの。

欧米のホラーやサイコサスペンスなどでは、人食いはかなり好んで扱われるモティーフです。グルメアンソロジーには必ず1、2編の人肉料理が収録されています。
人肉なんて絶対にまずいと思うけど、味の問題ではなく、タブーだから食欲をそそるのですよ。ほんとうにおいしければ、もっと広まっていて、食人罪なんてものも堂々と成立しているはず。

『カニバリズム論』(中野美代子/1987)は、文学における人肉嗜食を論じたエッセイ集で、実におもしろい本です。取り上げられた作品を読んでいればなおさら深みが増すけど、ほとんどがそうでなかった私にもじゅうぶん楽しめました。60年代に書かれたものも混ざっているけど、全く古さを感じさせないところもすごいなあと感嘆。
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投稿者:ルノ 17:24 | コメント(0) | トラバ(0) | 辞書と戯れる
2011年12月27日

私まだ生きてます

今年の私を漢字一字で表すなら、『惰』でしょうか。
いや、『堕』がピッタリかな。『駄』もあるぞよ。

なんで、ダばかり集めるんだ? これが運命って気がして。ダダダダーン。

ともあれ、ある日突然、生まれ変わったようにバリバリ働き始めるなんてのは、凡人には無理ですよ。
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投稿者:ルノ 22:00 | コメント(0) | 辞書と戯れる
2010年03月07日

謎の漢字

先日の新聞に、常用漢字改定案に対する識者の意見とやらが載っていました。

その中で、『多くの人が「おわび」を「お詑び」と書いてしまうが、正解は「お詫び」』という記述がありまして、「えーっ、そうなの?」とびっくり。
「詑」なんて字を書ける、というか、知っている人が、そんなに大勢いるのでしょうか。そもそも「詑」ってどーゆー意味?

講談社の『日本語大辞典』によりますと、「詑」は「タ」または「イ」と読み、意味は「あざむく、いつわる、だます」など。これを「お詫び」の代わりに使われたら、相手は怒りますよねえ(幸い相手も意味を知らない)。

ちなみに、手持ちの古い漢和辞典では特に説明はなく、「訑」と同じだそうです。「訑」も「あざむく、だます」というような意味です。

『日本語大辞典』で「訑」を探したら、見出しとしては載っておらず、「詫」の異体字とあります。へ? そりゃ「お詫び」ではありませぬか。

あらためて「詫」を見たら、その意味は「1:ほこる、おごる 2:あざむく、だます 3:かこつ、こぼす(愚痴を言う)」とあって、4番目にやっと「わびる、謝る」が出てくるのでした。

政治家や企業トップが「心からお詫び申し上げます」と頭を下げるシーンは、あまりに日常的で、すでに見飽きています。どの人も「心から」謝っている印象が全くなく、ただただ空疎で形式的なポーズに見えます。ケータイにストラップをつけるように、「お詫び」には「心から」を冠することが習慣化しているのです。

それもこれも、「詫」の本来の意味が「驕る、欺く、騙す」であると知れば、納得がいきますね。

おーっと。
何かと前置きが長いのが当ブログの性分(サービス精神旺盛?)。
本日の主役は「謎」でした。

その記事をよく読むと、常用漢字改定案には『「謎」の一点しんにゅうを許容する』という項目があるのです。これに私は、がびーんとショックを受けたのでした。

「謎」が二点しんにゅうだなんて、今まで知らなかった。
いや、そういうこと、考えてもみなかった。「謎」を手書きする機会などほとんどありませんが、さあ書けと言われたら、迷わず一点しんにゅうで書いたことでしょう。

ミステリ小説をよく読む私は、ことあるごとに「謎」という字を目にしています。なのに、じっくり見たことがなかったのです。

たまたま読みかけの本のサブタイトルが『謎』。表紙にでかでかとその字が記されています。確かに二点だあ。
推理作家になりたくて

一点しんにゅうが間違いというわけではありません。
現に私のパソコンでは、一点しか出ません。

アップにしますと

Vista以降は二点に見えるという話も聞きましたが。

改定案が「一点を許容」と言ってるのは、パソコンで普及している既成事実への追随なのだとか。
現行の一点を同じコードで二点に変え、さらに一点も許容というややこしいことになるらしいです。

「謎」はポピュラーな漢字です。学校で習わない子どもでも、たいていが読めることでしょう。
字の形も、言+迷うで非常にわかりやすい。意味を知らない子も少ないはずです。なぞなぞのなぞですからね。

「なぞ」が訓読みだとはわかるけど、ならば音読みはなんだろ。
「迷」がついてるから「メイ」だとは想像がつきます。実際、その通りです。「ベイ」とも読みます。
では「メイ」または「ベイ」が含まれる熟語って、何か思い当たりますか? 辞書では見つかりません。
謎解き、謎めく、謎かけなど、日本では「なぞ」としか読まれる機会がないようです。

熟語を持たない漢字はけっこうありますが、これほどよく使われる字においては珍しいのではないかと思います。
「謎」は謎に包まれた孤高の漢字なのですね。
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投稿者:ルノ 20:55 | コメント(0) | トラバ(0) | 辞書と戯れる